コンサート

NYには、クラシック音楽で有名な「ジュリアード音楽院」がある。私が高校生のころには、手の届かない「あこがれ」の地。
ジュリアードでは、毎日のように在籍する学生がコンサートを行っている。もちろん無料である。円安が進み、ことのほか財布の中身が厳しくなった今学期、年内のエンターテイメントは無料のものに絞ることを決意。そして、今週末、その無料コンサートの一つに行って見た。
「無料」「学生」と来ると、そんなに「質」を期待してはいけないのかも、、、なんてことも思ったりし、でも、なんてったって「ジュリアード」の学生だしなあ、、、なんてことも思ったりし、、、実際に、会場につくまで何を演奏するのかすらわからないのだ。
ジュリアードにつく。すると正面に目的のホールが。400名ぐらいがあるホールだろうか。新しいわけではないが、正面には見事なパイプオルガン、壁と天井はマホガニー調の木で覆われ、まさに、演奏するのにぴったりといった感じのホール。それを見ただけでわくわくする。開始までに時間があったので、構内のビルを探検することに。2階から1階ずつ上にあがって行く。ずらりと並ぶ練習スタジオ、モダンダンスのリハーサルをやっているスタジオ、歴代の演奏家の写真が飾られているホール、演劇専用のホール、なんだか、遊園地を回っているみたいに楽しい。将来のプロを目指し訪れた若者であれば、きっと、私よりもっとわくわくしてみて回っているに違いない。
演奏者は、バイオリンを弾く韓国人の大学生。すらっとした若々しい体系にとてもよく似合うワインレッドのドレスを着ていた。長々しく調弦をするのを私はあまり好まないが、彼女はほんの数秒で終了。そういった舞台マナーもとても好ましい。
最初の曲はバッハのパルティータ。無伴奏の曲である。地味だけど、私は結構好きな種類の曲。最初の音を聴いた瞬間、体の中に音がまっすぐに入ってきて身震いがした。それは、決して私がコンサートが久しぶりだったから、というだけでなく、説明がつかないけど、本当にまっすぐに体の中に染み込んでいく、とても心地のよい音。
私はバイオリンのスペシャリストではないので、細かい技術はわからないけど、その根底にあるレベルの高さは見て取ることができた。細かい一つ一つの音に神経が行き届いている感じ。どの音も大切にしている気持ちが伝わってきた。加えて、若さからくるエネルギー、でも、そのエネルギーは押し付けがましいものでなく、どこか、控えめですらある。そして、何より弾いていることが楽しそう。曲の合間は終始笑顔。本人は友人がたくさん来ていて恥ずかしかっただけなのかもしれないが、そういった恥ずかしさを感じる余裕すらない演奏者もいる。
バッハの次はプロコフィエフ、そして後半はベートーベンのソナタ。その素直に延びてくる「音」に感動。その音は、彼女の全身から発している。一つ一つの音を出す動きが、そういう錯覚を起こしているのかもしれない。陰ながら今後も応援したい、と思ってしまうぐらい。これから、もっともっと延びていってほしい、と思う。